話すことも聞くことも苦手です


   うつくしい冬が郭(くるわ)をむしばんで息をつくことさえままならぬ

   とっておき教えてあげおすアンタだけ 読書家のみる夢のはなしを

   禿(かぶろ)らの日本家屋にしみる声、おいらのとこのあねさん美人よ

   あの人がどこかで見てる正月の花魁(おいらん)道中 寒くはないわ

   ええいもう、揺らぐ気持ちよ 遊女なら惚れた腫れたなど言ってられぬ

   そこよそこ、四十八手の押し問答 ことわりしらずの隙間に黒を

   花魁にゃささくれを剥く暇もなし ここは吉原、わっちのすみか

   吉原という鳥かごでわっちらは飼われているの ふらめく季節

   自殺した男を好きなこの気持ち 花供養まで取って置こうか

   白濁は冬の渇きに似たにおい それには何の意味があるのサ

   ねェ早く 肩紐を外して旦那、焦らすなんてさ ひどいじゃあないの

   野暮なこと聞くもんじゃない、そう言ったお前さんこそ花形役者

   丑の刻 松葉崩しの最中にふわふわしている夜風を受けぬ

   次の世で結ばれませう、身を捩(よじ)り さも当たり前のように指切り

   赤椿 あいした間夫を追い掛けるここから逃げられはしないのに

   遊郭(ゆうかく)の泣く子もだまる 石畳、間に花ひとつさえ咲かぬ

   来ないならわっちが迎えに出向いたろ 紫陽花色の傘をひらいて

   あの家は売却してしまいおした、故郷は疾(と)うに捨ててありんす

   色里を出ゆく吉原駕籠(かご)の音は雨粒なんぞで消えもうされた

   「あの男、きっとわっちに気があるよ」 「扇屋の花魁の間夫だろ」




   (すばらしい御題を提供してくれた友人Sに大きな感謝を込めて)