2013.10-12


   だれも私をかえりみない世界で死んでゆきたい(生きてゆきたい) (10.6)

   辺りいちめん白い靄 われわれは繁殖する義務を放棄する (10.6)

   まるいメガネの恋人よ朽ちゆく肉体を預けてもよいですか (10.6)

   若木通かごいっぱいの愛である (10.7)※俳句

   許せるものが減ってゆく大人になるということ老いるということ (10.13)

   恋はおわったりはじまったりせわしないものだそこが愛とちがう (10.14)

   白線の内側でお待ちください 地下鉄の生ぬるい風たち (10.21)

   やわらかい土のうえで眠りなさい胸を冷やすととってもつらい (10.21)

   翼をくださいとびきり上等などこまでも飛んでいけるやつを (10.29)



   わづらわしこの身を棄てたき夜は夜の輪郭をまさに深めつ (11.2)

   今夜オリオン座がまたたいて横向きの砂時計こぼれそうです (11.5)

   あたらしい耳当てあたらしい腹巻き わたしは冬を恨んでません (11.13)

   あたらしい恋人あたらしい暮らし わたしは君を恨んでいます (11.13)

   星の名前を口のなかでつぶやく愛されていなくてもよかった (11.20)

   うさぎ座に追われるおおいぬ座もいるかもしれないね雨やまないね (11.20)

   心にも表面張力のはたらきがある洋梨だけが甘い (11.29)

   息を潜めて抱き合えばまたひとつ世界が閉じる音が聞こえた (11.30)



   いつか失はる神秘を携へて少女は駆ける駆けてゆきたひ (12.9)

   家じゅうのネジというネジが錆びたら会えなくなるね 恋は終わるね (12.23)

   わづかに朝の長くなりにけり冬至の過ぎし一日、一日が (12.23)

   最善を尽くしましたか。さ、い、ぜ、ん、と反芻しても分からなかった。 (12.25)

   サイダーがはじけるような音でした宇宙で聞いた星のまたたき (12.26)